※あくまで勉強会の報告書ですので,間違った解釈が含まれる可能性があります.また,形式は統一していないことをご承知おきください.内容に関するコメントなどは是非事務局までお願いいたします.
また、本報告書は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」と「大久保 憲秀 (2006) 『動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方』」を参照しています。その他の引用文献はページ末に付してあります.
2018年6月10-11日
第10回命名規約輪読会
生野賢司
条69.原公表中で固定されなかったタイプ種
担名タイプの決定に関わる用語
固定 fixation: 担名タイプを決定すること.方法は問わない.
指定 designation:著者あるいは審議会が,ある名義タクソンの担名タイプを,はっきりと表明して決定すること.そのタクソンの設立時になされる原指定と設立後になされる後指定がある.
69.
1930年以前に設立された属階級群タクソンで,原公表中ではタイプ種が固定されなかった場合の固定方法.
属階級群の生痕化石タクソンのタイプ種の固定に関して,大久保(2006, p.199)は「章4に書かれていなければ適格性の要件とは言えない」と述べているが,他の章であっても条文に規定されていれば無視はできない.
1931年以降の場合:条13.3により,新しい属階級群名はタイプ種の固定を伴うか,明示的に新置換名として提唱される.
条68:原公表中で固定される場合
条件 条70.2:以前の固定が見落とされていたことが判明した場合の処置
条件 条70.3:タイプ種が誤同定されていた場合の処置
69.1
後世の著者によって最初に指定された,その属階級群の設立時に含められた種の1つが,タイプ種になる.
69.1.1
設立時に含められた種の1つがタイプであると後世の著者が述べ,それをタイプ種だと認めていることが明白であれば,理由はどうあれ,タイプ種を指定したことになる.
「指定する」と書かれていなくてもよいし,タイプ種の選定理由が間違っていても書かれていなくてもよい.
アンモナイトでの例
Shimizu (1935b) は,原公表中でタイプ種が固定されなかった異常巻アンモナイトの1属 Polyptychoceras Yabe, 1927 のタイプ種が ‘‘Anisoceras pseudogaultinum Yokoyama, Palaeontographica, XXXVI, 1890, 181, pl. XX, Figs. 1–3’’ であると述べた.彼はこの種をタイプ種だと認めていると判断されるため,Shimizu (1935b) がこの種をタイプ種として指定したものと見なされる(Ikuno & Hirano, 2015).
実は,同じ著者が5ヵ月前に出版したShimizu (1935a) では,‘‘Yabe (1927) によって Polyptychoceras pseudogaultinum (Yokoyama) がPolyptychocerasのタイプ種に指定された’’ と述べられている.しかし,Yabe (1927) ではそのような指定は行われておらず,しかもこの記述だけではShimizu がこの種をタイプ種だと認めているかどうか(受け入れているかどうか)が判断できないため,この時点ではタイプ種を指定したとは見なされなかった.
69.1.2
文献記録で行われた後指定は,他の点で有効であれば,有効.
※文献記録とは?用語集には掲載されていない.Zoological Record 誌のようなもの?
69.2
別の属階級群のタイプ種になっていたり,それまで別の属階級群タクソンに含められていたりしても,タイプ種にできる.設立時に含められた種でさえあれば,自由.
69.2.1
不当な修正名もしくは不正な綴りを用いて指定されていても,正しい原綴りで指定されたものと見なす.
69.2.2
設立時に含まれていなくても,設立時に含められた種1種の異名リスト中に置けば,タイプ種にできる.
条文下から3行目末の「その名義種」は英語版ではthe latter speciesであり,タイプ種として固定されるのは設立時に含められた名義種の方.
大久保(2006)によると,「ただ1種の異名リスト中に置く」は不正確で,「ただ1種と異名関係があると述べる」の意.
69.2.3
新置換名で指定した場合,それが示す設立時に含められた名義種をタイプ種にしたことになる.タイプ種の学名は変えない(条67.1.2).
69.2.4
誤同定や誤適用の意味で指定された種は,それが実際に指し示す種がタイプ種.
仏語版では,誤同定や誤適用を指摘したのがいつの人物なのか,2通りに解釈できる(大久保,2006).
「名義種」とあるので,指定された種に適格名がなければタイプ固定自体が無効になる(大久保,2006).
69.3.
種を含まずに設立された属階級群に,後世に1種のみが含められた場合,自動的にタイプ種になる.
1930年以前(生痕化石の場合は1999年以前)に設立された属階級群名には,タイプ種がない場合がある(条12, 66.1).
69.4.
設立時に含められた種を1つだけ残しても,自動的にタイプ種を固定したことにはならない.残った1種を指定すれば,固定できる.
勧告69A 後世にタイプ種を選ぶ際に重視すべき点と優先順位.
ここで示されている点を重視することで,学名の安定性に寄与できるのだろう.
第1位
記載・図示が適切な種 or タイプ資料が存在している種 or 資料が得やすい種
第2位(69A.1)
最普通種 or 医学上・経済上の重要種 or communis(普通の), vulgaris(普通の), medicinalis(医学の), officinalis(薬用の) などの種小名をもつ種.
もし鯛属の中にmadai(真鯛)という種小名があれば該当するだろう.
第3位(69A.2)
属階級群名と実質的に同じ起源もしくは意味の種階級群名を,有効名もしくは異名に含む種(疑似同語反復)
例.Bos taurus(ウシ+雄牛), Equus caballus(馬+駑馬), Ovis aries(羊+牡羊), Scomber scombrus(鯖(ラテン語)+鯖(元のギリシャ語)), Sphaerostoma globiporum(球型の口+丸い穴), Spinicapitichthys spiniceps(刺のある頭の魚+刺のある頭)
「他の要因がそういう指定とは著しく異なることを示している場合」?:「刺のある頭の魚+刺のある尾」
第4位(69A.3)
設立時に含められた種の中で,現在もその属階級群に残っているもののうち,適当なもの
第5位(69A.4)
担名タイプの標本が性成熟している種
第6位(69A.5)
その属階級群の中でより大きな種のグループに所属する種
大久保(2006)では,ゴミ箱タクソンが大きなグループとなっている可能性を挙げ,分類学的・進化学的に合理的であるとは限らないと指摘している.
そもそも種数が多い方のグループとは書かれていないので,生息個体数が多い方のグループや,分布域が広い方のグループでもよいのかもしれない.
第7位(69A.6)
寄生生物の場合,ヒト,または,経済的に有用な動物,または,広く普通に分布する宿主に寄生する種
第8位(69A.7)
著者がよく知っている種
「他のあらゆる点で同じなら」は誤訳で,「以上の要件が同じなら」の意(大久保, 2006)
第9位(69A.8)
過去の著者に,代表的な種を先頭に配置して記載する習慣があった場合,先頭の種
第10位(69A.9)
過去の著者に,タイプ種を先頭に示す習慣があった場合,先頭の種
第11位(69A.10)
著作物,ページ,行などで最初に引用された種
69A.7と69A.10にだけ「他のあらゆる点で同じなら」という表現が入っている.なぜ?
引用文献