※あくまで勉強会の報告書ですので,間違った解釈が含まれる可能性があります.また,形式は統一していないことをご承知おきください.内容に関するコメントなどは是非事務局までお願いいたします.

 

また、本報告書は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」と「大久保 憲秀 (2006) 『動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方』」を参照しています。その他の引用文献はページ末に付してあります.

 

2017年6月4-5日

第9回命名規約輪読会

湊 廣輝

 

条66. 適用範囲

本章の条文と勧告は名義属と名義亜属全体(条10.4 の亜属と見られる属階級群を含む)に適用されるが、 属階級群レベルの寄集群(条13.3.2,42.3.1, 67.14 のようなタイプ種をもたない)には適用されない。

 

66.1

2000 年以降に提唱された属階級群レベルの生痕化石分類群は、学名の設立条件を満たして固定したタイプ種が必要。2000 年以前に設立されたのはタイプ種を要求しないが、今後は条69 と条13.3.3 を照らしてタイプ種を固定していく。

 

条67. 一般条項

67.1. 担名タイプ

名義属または名義亜属の場合、タイプ種とよばれる名義種である。(条42.3)

 

67.1.1

名義属とその名義タイプ亜属(条44.1)は同じタイプ種をもつ。(条61.2)

 

67.1.2

タイプ種の学名が新参異名、新参同名、抑制名であったとしても変更しない。(条81.2.1)

 

勧告67A.用語法

名義属もしくは名義亜属の担名タイプを指している場合、’タイプ種’または他の言語での同義語のみを用い、混同させないよう遺伝学で使われる’genotype’(遺伝子型)を代わりに用いるべきではない。

 

勧告67B.タイプ種の引用

タイプ種の学名は、設立時の二語名で引用するべきであり、無効名などであった場合、著者はそれらの有効な異名を引用する。

 

例. 十脚甲殻類の属 Homarus Weber,1795 に含められた名義種の1 つAstacus marinus Fabricius, 1775 がFowler(1912) によってHomarus のタイプ種として固定された。この属のタイプ種はAstacusmarinus Fabricius, 1775 なのでそう引用するべきであるが、Astacus marinus Fabricius, 1775 は現在、Cancer gammarus Linnaeus, 1758の異名だとされている。しかし、後者は Homarus のタイプ種ではないのでタイプ種として引用するべきではない。タイプ種への言及が必要な場合、“ タイプ種 Astacus marinus Fabricius, 1775.Cancer gammarus Linnaeus, 1758 の新参異名”または“タイプ種Astacus marinus Fabricius, 1775. 現在はHomarus gammarus (Linnaeus, 1758) の新参異名とされている”などのような方法で行うべきである。

 

67.2. タイプ固定に適任な種(設立時に含められた名義種)

設立時に含められた名義種は、名義属または名義亜属のタイプ種にできる。

 

67.2.1

「設立時に含められた名義種」とは新しい名義属または名義亜属に含められ、適格名で原公表に利用されたもの(条45.6, 68.2)と、過去の誤同定として意図的に引用されたもの(条11.10, 67.13, 69.2.4)に限る。

 

67.2.2

ある名義属、名義亜属が名義種を含まず1930 年以前に設立された場合、後世に最初に含められた名義種を設立時に含められたものとす。

 

67.2.3

学名が記載されている出版物を参照するだけでは、その名義属に名義種をふくめたことにはならない

 

67.2.4

適格な属階級群名を別属の異名で引用しても、前者に含まれる名義属を後者に含めた事にはならない。

 

67.2.5

疑問付き、条件付き、または未確定種、所属不明で引用された場合、その名義種は設立時に含めたとはならない

 

67.3. 固定に関連した行為の許容性

名義属または名義亜属を設立した著者の命名法的行為その他の公表されたものだけが次の各号の決定に関係する。

 

67.3.1

タイプ種が条67.8 と条68 と合致して固定されたか。

 

67.3.2

条67.2 の意味を含む名義種はどれか(種を含まない名義属階級群に含まれる名義種は条67.2.2 を)。

 

67.4. タイプ固定

ある名義属もしくは名義亜属のタイプ種は設立時(原公表中で固定された場合)[条68]もしくは後世(その名義属もしくは名義亜属が設立された後に固定された場合)[条69]に固定される。

 

67.4.1.

1931 年以降に設立された名義属階級群タクソンは、原公表中で固定されたタイプ種をもたなければならない[条13.3]。

 

67.5. 指定

タイプ種の用語である’指定’は、厳密に解釈しなければならない。

 

67.5.1.

ある属または亜属の一例として、ある種を言及する。

 

67.5.2.

ある属または亜属の特徴には’典型’、’典型的’と言及すること。

 

67.5.3.

不明確な方法、条件付きでされた指定。

 

例.次のような言明はどれも本規約の意味におけるタイプ指定とは見なさない。’Aus xus は属Aus の典型的な一例である’、’Aus xus の前翅の翅脈は属Aus の典型である’、’Aus xus はおそらくAus のタイプであろう’

 

67.6. 不正な綴りもしくは不当な修正名を使用した固定

タイプ種の学名がそれを固定した時に、不正な綴りもしくは不当な修正名の形で引用されたとしても、その学名はそれの正しい原綴りの形で引用されていたとする(条69.2.1 も併せて見る)。

 

67.7.不正な引用の地位

ある名義属、名義亜属に対してタイプ種を固定する場合、著者がそのタイプ種の学名または属もしくは亜属の学名を最初に設立していない著者もしくは日付に帰したとしても、あるいはその属、亜属への名義種の明示的包含が誤って引用されていても、名義種が他の点で適任ならその著者が有効に固定したと見なす。(過去の誤同定は条11.10 と67.13 を)

 

例:タイプ種なしで設立されたAus Dupont, 1790 は、Smith (1810)の著作物でよく知られ、後々にBus xus が’Aus Smith, 1810’のタイプ種とされても、Bus xus がタイプ種として適任であればAus Dupont,1790 のタイプ種として受け入れられる。Bus xus に帰すべき著作権や日付が誤っていて問題ない。