※あくまで勉強会の報告書ですので,間違った解釈が含まれる可能性があります.また,形式は統一していないことをご承知おきください.内容に関するコメントなどは是非事務局までお願いいたします.
また、本報告書は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」と「大久保 憲秀 (2006) 『動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方』」を参照しています。その他の引用文献はページ末に付してあります.
2015年6月14-15日
第7回命名規約輪読会
照屋清之介
章6. 学名と命名法的行為の有効性の続き
条24. 同時に公表された学名、綴り、もしくは行為の間の優先権
24.1 学名の優先権の自動決定
本条には、2 つの内容を含む。1 つ目の内容は、より高い階級で公表された学名が優先権をとること。種階級群だと、種>亜種。属階級群だと、属>亜属。科階級群だと、上科>科>亜科>族。その他の上科より低く、属階級群よりも高い任意の階級に関しては、その時々の定義に従う。
2つ目の内容は、あるタクソン(例えば、種)とその名義タイプ従属タクソン(例えば、亜種)を同時に、別々にタイプ固定されたら、あるタクソンに対する固定が優先権を持つ。たとえば、Aus bus とAus bus bus に対して、同時に、別々のタイプ固定がされた場合は、Aus bus に対する固定が優先権を持つ。
例:vulgaris と sinensis はシノニム関係。sinensis は種、vulgaris は亜種として記載された。この場合、sinensis が優先権をとる。
24.2 第一校訂者による決定
24.2.1 第一校訂者の原理の声明
第一校訂者とは、優先権が規約上で決まらない場合、問題の論文を引用した上で、最初に議論を行った者のこと。第一校訂者が優先権を決定される。
シノニムリストもこれに当たる可能性があり、明言しなくても勝手に第一校訂者になる可能性がある(生野さん、勉強会中)。
24.2.2 第一校訂者による学名もしくは行為の優先権の決定
複数の学名が同じ日に公表されたなら、それら学名や行為の優先権は、第一校訂者によって固定される。例外として条24.1(同一日付なら、高い階級が優先)がある。
注意点:同じ著作物中で公表された場合、ページが早い方に、自動的に優先権があるということはない。ページが早いかどうかは、第一校訂者の選択基準(大久保、2006)。
例:Strix scandiaca とS. nyctea は、Linnaeus(1758)で一緒に公表された主観異名(元々異なるタイプ標本に対して命名された名前が、それらのタイプ標本が同じ種類だと判断されることにより生じるシノニム by wiki)。Lönnberg (1931)が第一校訂者として、S. scandiaca に優先権を与えた。有効名はS. scandiaca。
24.2.3 正しい原綴りの選定
著者や印刷業者のミスなどで、著作物中で複数の綴り方で、綴られている場合、第一校訂者が正しいものを選択できる。選択された綴りは、正しい原綴りとして固定される(条32.4 や条32.5 で不正でないなら)。
(条32.4: 不正な原綴りの地位、条32.5: 訂正しなければならない綴り)
それ以外の綴りは不適格(条32.4: 不正な原綴りは不適格)。
あえて、おかしな方を選ぶこともできるが常識的な判断をするように勧告されている。
24.2.4 原著者は綴りの第一校訂者と見なし得る
原著で複数の綴りで書かれた。それを第一校訂者がまだ出ていない。そのとき、原著者や共著者のひとりが、後々の著作物中で、どちらか1つを有効名として使用した場合は、その著者を第一校訂者とする。この場合、複数の綴りを書いてある必要はない。
24.2.5 第一校訂者による不要な行為
命名規約で解決できるような場合は、第一校訂者の行為は取り消される。
勧告24A. 第一校訂者の行為
第一校訂者は、命名法の安定と普遍性に寄与するであろう学名、綴り、命名法的行為を選ぶべき
勧告24B. 同じ綴りの学名からひとつを選ぶ第一校訂者は著者権の帰属に関するその時点での一般的意見にしたがうべきである
同一、もしくは、別々の著作物中で同じ日に公表された、同じ綴りの学名の優先権を決定する場合の対処法について。同じ綴りで、同じ分類学的タクソンを示している。
この例として、生物相調査の報告書として、著者A と著者B が、別々の論文上で、学名を新しく使う場合が挙げられる。著者A とB が、同じタクソンに対して、同じ綴りで、命名法行為を行ってしまう場合がある。こういうときは、著者A が「私がこれを命名する」や、著者B が「この学名は著者A によるものである」と言及していれば、著者A の著作物の学名に優先権を与えるべき。学名の著者も、著者A になる(大久保、2006)。
章7. 学名の形成と扱い
条25. 学名の形成と扱い
条11、条26~34 の該当する条項にしたがって運用されるべき。付録B は110ページ。
勧告25A. 略記
出版物内で最初に学名を書くときは、フルスペリングすべき。その後の略記はOK。略記したら、ピリオドを添える。
勉強会中に、属名Aedes を略記する場合にAeでなくAdとするのはありか?と話題になった。命名規約中には、特にそれがダメとは書かれていない。恐らくありだろう。クモヒトデでは属名がOphio-ばかりなので、Opとしても特定できないので頭から2文字では区別できない。
例:略の仕方は、混同されないように書いてもよい。
勧告25B. 由来
新学名には、語源の説明をつけて出版すべき。
勧告25C. 新学名を形成する著者の責務
くどい言い回しになっているのは、国際常識にそって、ちゃんとした名前をつけなさいということ。特に、故意でなくても、他国の神への冒涜が最も危険(大久保、2006)。
条26. 学名におけるギリシア語またはラテン語の仮定
ラテン語やギリシア語の意味を意図していなくても、説明がなければ、ラテン語やギリシア語の単語だと捉えられることになる(須藤さん、第二回報告書)。著者が別の言語と宣言している場合はそれに従う。それらの言語にこだわる理由は、語末がラテン語やギリシア語であるかによって左右される規定が多いから(大久保、2006)。
複合名:ひとつの単語または学名が、複数の基本成分の合体として形成されていること(用語集、102 ページ)。
勉強会中に具体例が出た。エソダマシの学名はAulopus damasi(騙し)だが、外国の人はDamas さんへの献名だと誤解してしまうだろう。Etymology が重要となる例である(日比野さん、勉強会中)。
条27. 区別的発音符や他の記号
区別的発音符や、記号(アポストロフィなど)、連結文字(æ やoe)は学名に用いない。ハイフンは、条32.5.2.4.3 に限り使用可能。
※条32.5.2.4.3 Polygonia c-album(シータテハ)のc-album.
このチョウの翅の白い斑紋が文字c に似ていることから名付けられた。このように、先頭要素が形質を説明するラテン文字1文字の場合はOK。
条28. 頭文字
属階級群名、科階級群名、科階級群名より高次のタクソンの学名の頭文字は、大文字で書く。種階級群名の頭文字は小文字にする。
勧告28A. 先頭の語
英文中だと文頭が大文字になる。種小名を文頭に持ってきて、大文字にしないようにする。どうしてもその状況になれば、文頭にThe を付ける方法がある。
※1 北海道のチョウ デジタル検索図鑑
http://www.ricen.hokkaido-c.ed.jp/233seibutsu_zukan/kensaku-zukan2007/kensaku-tyugurai/kensaku-tyutya2/kensaku-tyu-tya2-i