※あくまで勉強会の報告書ですので,間違った解釈が含まれる可能性があります.また,形式は統一していないことをご承知おきください.内容に関するコメントなどは是非事務局までお願いいたします.

 

また、本報告書は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」と「大久保 憲秀 (2006) 『動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方』」を参照しています。その他の引用文献はページ末に付してあります.

 

2015年6月14-15日

第7回命名規約輪読会

 岡西政典

条29. 科階級群名

 

29.1. 科階級群名の形成.

科階級群名は,タイプ属の学名の語幹もしくは全体(※条55.3)に,各階級で定められた接尾辞(-Oidea[上科],-idae[科],-inae[亜科],-ini[族],-ina[亜族]:条29.2)を付加して形成する.

 

※条55.3.1.1.に,「古参同名が遺失名である場合は同名関係を避けるため,タイプ属の新しい語幹を選択して新しい科階級群名を提唱できる.」とある.この際に属名の全体を選択する事になるのだと思う.

 

29.2. 科階級群名の接尾辞.

各接尾辞に関しては上記の通り.科階級群の接尾辞の使用は厳守.例えば,科の接尾辞に-inae を用いてはいけない.他の階級ではこの限りではない.

 

29.2.1.

例えば,属階級群と種階級群には-oidea, -inae などを用いても良く,その場合それらの階級群の適格性,有効性には影響しない(例参照).

 

例).Ranoidea(両生類);Collocalia terrareginae (鳥類);Concinnia martini(爬虫類);Hyla mystacina (両生類)はいずれも問題ない.

 

29.3. タイプ属の学名中の語幹の決定.

科階級群名の語幹は,タイプ属(名義科階級群タクソンの担名タイプと呼ばれる名義属のこと[条63])の学名基づき,次のように決定する.

 

29.3.1.

ある属名が,

  1. ギリシャ語もしくはラテン語の単語である時
  2. ギリシャ語もしくはラテン語で終る時
  3. ギリシャ語もしくはラテン語の接尾辞に終わる時

適切な属格形の各語尾を取り払うことで形成する(ラテン語の語尾・語幹についてはコチラを参照).

 

29.3.1.1.

語幹が-id で終わる場合は,これを取り除いても良い.しかし取り除かない形が慣用されていれば,原記載に関わらず,その綴りを使用する.

 

例)Haliotidae の元となる属Haliotis の語幹はHaliotid-なので,本来はHaliotididae にすべきだが,Haliotidae が慣用されているのでこれを維持する.

 

29.3.2.

ある属名が,

  1. 語尾をラテン語化したギリシャ語である時
  2. 語尾をラテン語化したギリシャ語で終る時

その語幹はラテン語化された語幹に即して決定する(語源がギリシャ語だとわかったからと言ってギリシャ語の用法を持ち出さない).

 

例)ギリシャ語keras はcerus とラテン語化する.ラテン語化されていなければ,cerat-というギリシャ語の変化をするのだが,語幹を決定する際にはラテン語化したとみなし,cer-を語幹とする.

 

29.3.3.

ある属名が,

  1. ギリシャ語でもラテン語でもない単語である時
  2. ギリシャ語でもラテン語でもない単語で終る時
  3. 文字の任意の組み合わせの時

語幹は,基本的には科階級タクソンを設立した著者の定めるもので,

  1. 属名全体
  2. 属名全体から語尾をとったもの(ギリシャ語,ラテン語のような綴りを持つ場合)
  3. 属名全体によりごろがよくなる連結文字を結合したもの

のいずれかを取る(英語版)/取ってよい(フランス語版).

 

29.4. 設立時に形成された語幹の受容.

以上の条が適用できたのに,規定と異なる語幹を使った場合,接尾辞が正しく(idae などになっており)(条29.4.1),ギリシャ語,ラテン語なのに条29.3.3を適用した場合(属名全体などを使うなど),その現綴りを維持する.

 

例)Prorexidae XXX, 2000 のタイプ属はProrex で語幹はProteg-であり,Proregidae としなくてはならないが,Prorexidae を維持する.

 

29.5. 原稿の綴りの維持.

ある科階級群名が,以上の条に従って形成されていないが慣用されていれば(慣用法は主観的なもの.動物命名規約第四版P90 を参照),それを維持する.

 

※大久保先生の本によれば,「科階級群名にホモニムが生じるのは構造的な欠陥.既存の科階級群名の語幹を全て属名全体に置換する荒療治が必要.」(下記勧告29A参照)

 

29.6. 科階級群名における同名関係の回避.

科階級群名がを設立する著者は,タイプ属の学名から適切な語幹を作り,既存の名前とのホモニム関係が生じることを避けなくてはならない.既にホモニム関係が生じている場合は審議会に委託する(条55.3.1)

 

※大久保先生の本によれば,もちろんホモニム回避の努力はすべきだが,回避の失敗は本人の努力で100%防げるわけではない.本条は規定にはなり得ず,勧告にすべきもの.

 

勧告29A: 科階級群名の同名関係を避ける望ましい方法として属名全体を語幹として使用すること.

タイプ属は全て異なる綴りとなっているので,この方法を用いれば,ホノニムを避けられる確率は高くなる

 

※ただし,全ての科階級群名がこの措置を取らなくては100%にはならないと思う.例えばAeus 属(語幹Ae-)に基づくAeidae を,属名全体に基づくAeusidaeにした時,もしAeusus 属(語幹Aeus-)に基づくAeusidae があれば,ホモニムとなってしまう.この場合,後者はAeusus 属名全体に基づくAeususidae にしなくてはならない(つまり,全ての科名で同じ措置を確実にとる「荒療治」が必要).

 

例)審議会は,Mirini Achmead, 1900 のタイプ属Mira の語幹をMira-であるとし(本来はMir-),Miraini Achmead, 1900 に変更し,Miridae Hahn との同名関係をなくした.MiriniMiridae が同じ階級群内で同名関係を争うことに注目.

 

 

引用

  • ジュディス・E・ウィンストン/著,馬渡峻輔・柁原宏/訳,2008.種を記載する,第8 章 種を命名する:語源学:pp. 179-209.
  • 平嶋義宏/著,2002.生物学名概論
  • 小野展嗣/編,2009.動物学ラテン語辞