※あくまで勉強会の報告書ですので,間違った解釈が含まれる可能性があります.また,形式は統一していないことをご承知おきください.内容に関するコメントなどは是非事務局までお願いいたします.

 

また、本報告書は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」と「大久保 憲秀 (2006) 『動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方』」を参照しています。その他の引用文献はページ末に付してあります.

 

2014年6月15-16日

第6回命名規約輪読会

岡西政典

 

条14. 学名や命名法的行為の匿名の著者権

 

1950 年よりも後(1951 年1 月1 日以降)に匿名で行われた命名行為は不適格.

 

※匿名とは,著者もその著作物の公表者もその著作内容から決定できない場合の,学名や命名行為の著者(条50. 1).

※実際に,“Anonymous, 1950”という著者の文献を引用することがある(第6回参加者談)

 

1951 年よりも前(1950 年12 月31 日以前)の匿名の命名行為は適格.審議会が公表した命名法的行為には適用されない.

 

※一見匿名かと思われる学名や命名法行為の場合でも,以下の「Official list」,「Official index」内に入っている学名は例外.Official Index: 以下の4 つの公式索引に入った学名もしくは命名行為は,基本的には不適格かつ無効となる(条80.7).

 

1. 「 Official Index of Rejected and Invalid Works in Zoological

Nomenclature (動物命名法において拒否された無効な著作物の公式索引)」

 

2. 「Official Index of Rejected and Invalid Family-Group Names in Zoology

(動物命名法において拒否された無効な科階級群名の公式索引)」

 

3. 「Official Index of Rejected and Invalid Generic Names in Zoology(動物命名法において拒否された無効な属名の公式索引)」

 

4. 「Official Index of Rejected and Invalid Specific Names in Zoology(動物命名法において拒否された無効な種小名の公式索引)」

 

Official List: 以下の4 つの公式索引に入った学名,命名行為,著作物は,適格である(条80.6:大久保, 2006).ただし,一度は何らかの問題があって審議会にゆだねられた経緯があるものであることに注意.

 

1. 「 Official List of Works Approved as Available for Zoological

Nomenclature (動物命名法にとって適格と認められた著作物の公式リスト)」

 

2. 「Official List of Family-Group Names in Zoology(動物学における科階級群名の公式リスト)」

 

3. 「Official List of Generic Names in Zoology(動物学における属名の公式リスト)」

 

4. 「Official List of Speciefic Names in Zoology(動物学における種小名の公式リスト)」

 

条15. 1960 年よりも後(1961 年1 月1 日以降)に公表された学名および命名法的行為

 

15.1 条件付きの提唱.

1961 年1 月1 日以降の条件付き命名行為は不適格.

 

※条件付き命名行為とは,「この新種を提唱するが,もし~であるならば,将来的には~属に入れたい」など.

 

1960 年12 月31 日以前の条件付き命名行為.

 

○条件付き,あるいは不明確なタイプ固定や(条67.2.5)タイプ指定(条67.5.3)指定は認められない.

例)「Aus xus はおそらくAus のタイプであろう」はタイプ指定にはならない.

 

○条件付きで提唱された属名(例えばBus)と,同時に公表された種階級群名(例えばAus cus)については,Aus cus を適格名とみなす(条11.9.3.6).また,その後,Bus が認められ,Bus cus comb. nov. となった場合は,著者は丸括弧に収める(条51.3.3).

 

※条11.9.3.6 は,条11.5.1 のもと,1960 年12 月31 日以前に条件付きで提唱された学名は除外されないため,上記のBus は適格かつ有効となる.従って,Aus cus とBus cus のどちらも有効になり得てしまう.この場合は,Aus cusを適格名とする,という条.

 

○仮の暫定的な結合は,適格でありうる(条11.9.3.4).ただし,これは「条件付き」とは異なることに注意.

例)Aus? aus として公表された種名,「所属が分からないので,さしあたりAusに入れておく」などの記述.ただし,学名に挿入された”?”は無視される(条5.3).

 

15.2. 1960 年よりも後に「変種」や「型」という用語を伴って提唱された学名は除外される.

1961 年1 月1 日以降に変種(”var”や”v.”)あるいは型(”froma”や”f.”)と明示された新学名は,本規約の規制を受けず,除外される

 

※条1.1.1 の参照は間違い.条1.2.2 の参照であろう.条1.3.4 と条45.6.3 は,1961 年1 月1 日以降の話に限っては,同じこと「亜種よりも低位の実体に当てはまるものは除外」を言っている.

 

※化石ではforma を最近でも使っているようである.また,家畜では変種や品種を今でも使っているようだ(岡西が科博の哺乳類の人から聞いた話).

 

15.2.1.

1960 年12 月31 日以前:変種あるいは型として公表された学名は,亜種とみなす.ただし,その際に,亜種よりも低位であると明示されていれば,その学名は亜種よりも低位とみなされ,不適格(条45.6.4).しかし,そのようなものが,1985 年よりも前に種や亜種の有効名として扱われる,あるいは古参ホノニムとして扱われた場合は,亜種とみなす(救済措置?)(条45.6.4.1).

 

条16. 1999 年よりも後(2000 年1 月1 日以降)に公表された学名.

 

16.1. すべての新名義タクソン(新置換名を含む)には著者による設立の意向が明言されること.明示の方法は以下のとおり(勧告16A).

論文のタイトルやイントロダクションでの「新種」の名言.初出した学名の後に”sp. nov.”, “g. nov.”, fam. Nov.”, “spp. Nov.”, “new family”, “new genus”,“new species”などを用いる.

 

"stat. nov." について:階級が変化する場合につけられる略号である.亜属から属,亜科から科(またはその逆)などの変化は基本的には新適格名の提唱ではない.しかし亜種よりも低位の実体を亜種または種に格上げする場合は,新適格名の提唱となる.これにより著者,発表年に混乱が生じる可能性があるため,この略号は使うべきではない.種階級群名からそれより低位への格下げは,本規約の関知するところではない.

ただし,実際に2000 年1 月1 日以降に亜種か種への格上げにstat. nov.が使われている場合は,格上げした者を著者として(その著者が原記載者を著者としていても)受容すべきである(条45.5.1).

 

※この勧告は,新名義タクソンの設立時の際のものであることに注意.それ以外の場合には普通に使われる.

 

16.2. 科階級群名:タイプ属を引用すること.

条13-15 を満たす(適格な),著者がはっきりとしている著作物の中で,

 

Aidae fam. nov.

Type genus: Aus, Author X.

Diagnosis. ******

 

のように公表し,タイプ属を引用すること.

※この際,タイプ属の著者,日付,書誌事項も引用するのが望ましい(勧告16B).

 

16.3. 属階級群名:生痕化石タクソンと奇集群.

新属階級群の生痕化石には,タイプ種が固定されなくてはならない(条66.1).タイプ種が固定されていなかった新置換名が提唱された場合は,新たに固定しなくてはいけない(条13.3.3).

 

新属階級群の寄集群に対しては,タイプ種を固定する必要はない(条13.3.2.),というより,寄集群はタイプ種をもたないものである(条42.3.1).ある属階級群が後に寄集群にされた場合は,そのタクソンのタイプ種は無視される(条67.14).

 

16.4. 種階級群名:タイプ固定は明確になされること.

 

16.4.1.

2000 年1 月1 日以降に公表された新種階級群名は,あるコレクションに供託され,その名称と所在が示された(条16.4.2),ホロタイプまたはシンタイプの明示的固定(条16.4.1)が求められる.

※シンタイプは今でも許される.

※タイプは群体でもよい.

※描画や記載への文献参照で記載された種の場合も,担名タイプはあくまでも描画,記載された標本を指す(描画や記載自体がタイプになるわけではない.条72.5.6)

 

16.4.2.

新置換名の場合は元の適格名の設立時に指定されたタイプを持つため,新たにタイプの指定はしない(新たに指定してしまうと,タイプが二つできることになる).

 

※個人宅の標本も不可ではない.ただし勧告では避けるように言われている.

 

勧告16C-F: 以下のような記載が望ましい.

 

Squamophis albozosteres sp. n.

Figs 2–5

 

Type materials. MV F 162657, holotype(勧告16E:シンタイプよりもホロタイプを選ぶ)(勧告16C: 信頼ある研究機関への供託), stn SS05/2007 116, off Broome, northwestern Australia,16˚45.09’S, 121˚02.48’E–16˚44.36’S, 121˚02.12’E, 100–108 m, 30 Jun 2007, epibenthic sled(勧告16D: タイプ標本を識別する情報の公開[ホロタイプ:[勧告73D]). MV F162658, two paratypes, stn SS05/2007 188, off Ashmore Reef, northwestern Australia, 12˚26.42’S, 123˚36.03’E–12˚26.58’S, 123˚36.35’E, 95–96 m, 7 Jul 2007, benthic dredge(パラタイプの指定[勧告73C]) (Fig. 1).

 

Description of holotype. MV F162657: disc diameter 3.4 mm, arm length approximately 50 mm (Fig. 2)(勧告16F: タイプ標本の図示).