※あくまで勉強会の報告書ですので,間違った解釈が含まれる可能性があります.また,形式は統一していないことをご承知おきください.内容に関するコメントなどは是非事務局までお願いいたします.

 

また、本報告書は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」と「大久保 憲秀 (2006) 『動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方』」を参照しています。その他の引用文献はページ末に付してあります.

 

2009年6月14-15日

第1回命名規約輪読会

千田喜博

第4版への緒言

第3版から第4版の発行までには,15年という予想よりも多くの年月がかかったが,これは科学の発展とEメールによる議論の活発化のためである。結果的には動物学者にとってよりよい規約となったはずである。

二名法を捨て去ることは不可能で,かつ今後伝統的命名法と分岐主義的系統学の概念や用語法とが共存する必要があることを考えると,第5版に向けてまだまだ新たな提案が生まれてくるはずである。

 

序文

●国際動物命名規約第4版の目的

動物学者が動物を分類する自由を損なうことなく,動物の学名に最大限の普遍性と連続性を与えうるようにすること。基本的に種,属,科のいずれかの階級群に属する動物の学名の決定に関して有効であり,その指針を示す。

 

●原則

  1. 分類学的判断は,規約に縛られない。
  2. 命名法は,あるタクソンの広さを決定するものでも,動物のある集合にどのような階級の与えるかを決定するものでもない。反対に,その分類学的境界や階級に関わらず,あるタクソンに然るべき学名を与える。
  3. 規約によって制約される学名は,それぞれひとつの担名タイプを持つ。先取権の原理は,あるタクソンが含む適格な学名をもつ担名タイプが複数存在するときに,どの担名タイプが有効であるかを決定するために用いられる。
  4. ただし,先取権の原理の適用により学名の混乱が生じる場合は,それを緩和する条項が存在する。
  5. ひとつの学名はひとつのタクソンに対してのみ用いられなくてはならない(同名関係の原理)。
  6. 規約は新たな学名の設立に際する指針となり,条項によって提唱済みの学名の適格性,先取権,訂正の必要性に起因する問題を解決し,担名タイプの確認を可能にする。
  7. 規約の中には審議会の規則,運営,規約それ自体を改正する条件が規定されている。
  8. 審議会は規約上の問題を解決するにあたり,過去の判例は用いない。そのときどきの案件のみに対して裁定が下る。

 

●国際動物命名規約の歴史

年表参照

 

●生物命名規約“Biocode”に向けて

国際生物科学連合(IUBS)は生物命名規約の設立に向けての活動を広く支援したが,本版ではそれについての改変を導入するのは不可能であった。現在,各命名規約(国際動物命名規約;国際植物命名規約;国際細菌命名規約)の統一に向けて,改変の努力(特に用語面において)がなされているが,当面その解決は困難であろう。

 

●この版について

国際動物命名規約は,複雑かつ緊密に統合された文章である。すなわち,各条項は網目のように相互に関係しあっている。第4版では,現役の分類学者のほとんどが容易に解釈できる規約にするために,前版にくらべて事項の配置を変えたほうがよい場合はそのようにし,それ以外は前版に従っている。

 

●基礎となる諸原理の発展

  1. 学名が適格である条件:第3版からの要求に加え,条件付きながらCD-ROMを媒体として容認した。電子信号によって公表されたものは不可。
  2. 新学名すべてを登録する件について:検討したが,満足する手段が得られないため困難である。しかし,植物での経験を生かせば今後可能になるだろう。また,新学名のすべてにZoo. Rec.に注意が向けられるように勧告された。
  3. 学名探索について:学名探索が完璧にできるようにするために,“List of Available Names”という方法が掲示された。
  4. ラテン語文法について:ラテン語の知識に乏しい新進の動物学者のために,学名の形成を簡単にするための改変がなされた。
  5. 審議会の介在が必要な案件について:前版までに審議会の介在が必要だった案件の一部が,規約の条項によって自動的に処理できるようになった。

 

●前版からの主な改変

※これらは各関連条項を参照のこと

  1. 新学名の提唱に影響する改正
  2. レクトタイプ指定について
  3. ネオタイプについて
  4. 公表について
  5. 確立された用法を守るために行動する著者に権限を与える措置(慣用法の維持について)
  6. 適格名リスト(List of Available Names)