※あくまで勉強会の報告書ですので,間違った解釈が含まれる可能性があります.また,形式は統一していないことをご承知おきください.内容に関するコメントなどは是非事務局までお願いいたします.

 

また、本報告書は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」と「大久保 憲秀 (2006) 『動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方』」を参照しています。その他の引用文献はページ末に付してあります.

 

2012年6月10-11日

第4回命名規約輪読会

伊勢戸 徹

 

章13.命名法におけるタイプの概念

条61 タイプ化の原理

タイプ化(typification)とは?

★ 学名の適用を決定することができる客観的な参照基準を与えるために、

ある名義タクソンのなんらかの担名タイプを固定すること

(用語集p.97)

1つの名義タクソンに1つの担名タイプを固定

(未同定のタクソン X)=(名義タクソンA の担名タイプ)

⇒ タクソン X には、名義タクソンA の名前をつける (大久保 2006)

(ちなみに、大久保(2006)では「タイプ制」と翻訳)

 

タイプ化は先取権とあわせて命名規約の二大重要基盤(大久保2006)

先取権:学名が唯一無二であることを保証

タイプ化:学名とタクソンが一致することの安定性・普遍性を確保

 

そのため、タイプ化については割かれているページも多い

章13(条61) 総論

章14~章16(条62~76) 科属種の各階級群の各論

 

条61.1. タイプ化の原理の声明

科階級群、属階級群、種階級群のいずれかに所属する名義タクソンはどれも、実際にあるいは潜在的に担名タイプをもつ。ある名義タクソンに担名タイプを固定することは、そのタイプが担う学名を適用するにあたっての客観的な参照基準を提供する。

 

… タイプ化の原理(第1 文)とその効果(第2 文)が説明されている。

 

条61.1.1

ある分類学的タクソンの境界についての意見が動物学者の間でどんなに異なるとしても、そのタクソンの有効な学名は、その境界の内側に所属していると考えられる担名タイプから決定する[条23.3]

 

★ ある分類学的タクソンが担名タイプを1つしか含まない場合

⇒ その担名タイプに基づく名義タクソンの名前がその分類学的タクソンの名前として採用される

★ ある分類学的タクソンが複数の担名タイプを含む場合

⇒ 担名タイプが示す名義タクソンの名前を章6(学名と命名法的行為の有効性:条23~24)に従って検討し、有効とされる学名がその分類学的タクソンの名前として採用される

(大久保 2006)

 

(条23.3 だけを参照しているのはおかしい?)

 

条61.1.2.

タイプ化によってもたらされる客観性は、学名の階級構造を通じて連続している。それは、種階級群から科階級群まで順に上に伸びる。すなわち、名義種階級群タクソンの担名タイプとは1 つの標本もしくは一揃いの標本(ホロタイプ、レクトタイプ、ネオタイプ、もしくはシンタイプ[条72.1.2]のどれか)であり、名義属階級群タクソンの担名タイプとはそれ自らのタイプによって客観的に定義されている名義種であり、名義科階級群タクソンの担名タイプとはそれの学名が基づいた名義属である。

 

名義種階級群タクソンの担名タイプ =標本(詳しくは条72.1.2)

名義属階級群 〃 =名義種

名義科階級群 〃 =名義属

 

第1 文・第2 文(「すなわち」の前)の意味 …… 科階級群と属階級群ではその担名タイプが属・種という概念(=主観的)であるため、本来であれば客観的な基準にはならない。したがって、担名タイプが実体(標本=客観的)である種階級群を出発点に置くことで、科階級群と属階級群の担名タイプ(属・種=概念=主観的)にも客観性を担わせられるようにしている。 (大久保 2006 参照)

 

条61.1.3

いったん固定されると、担名タイプは不動であり、学名の適用における客観的連続性をもたらす。つまり、どの名義タクソンの担名タイプも、本規約の条項に合致していったん固定されると、変更の対象になることはない。ただし、条70.3.2 に規定する名義属階級群タクソンの場合、条74 および条75 に規定する名義種階級群タクソンの場合、および審議会の強権の使用による場合[条81]を除く。

 

・担名タイプは変更できるのか? → 基本的には変更不可

・変更可能な場合:以下に規定

条70.3.2(名義属階級群)、条74 と条75(名義種階級群)、条81

 

条61.2 名義タイプタクソンの担名タイプ

ある名義タクソンの担名タイプは、そのタクソンの名義タイプタクソン[条37.1, 44.1, 47.1]の担名タイプでもある。したがって、一方に対する担名タイプの固定は、他方に対する固定でもある。

…「名義タイプタクソン」の定義からの帰結

「一方がもう一方の」部分の解釈

…名義タイプタクソンがその元になる名義タクソンより先に設立されることは定義上ありえないため、次の種階級群の例のように、同時設立の場合にそのような逆の事例が想定される。つまり新種・新亜種を次のように同時に記載したとする。

 

Aus bus 担名タイプを指定しなかった

Aus bus bus 担名タイプとして標本Y を指定

Aus bus cus 〃 Z

 

この場合に、種Aus bus の担名タイプは自動的にY になる、ということである。普通、このよう指定の方法はとらない。 (大久保 2006)

 

条61.2.1

ある名義タクソンとその名義タイプタクソンに、同時に別々の担名タイプが固定された場合、高位階級のタクソンに対する固定が優先権をもつ。

 

Aus bus 担名タイプとして標本X が固定

Aus bus bus 〃 Y

Aus bus cus 〃 Z

Aus bus の担名タイプはY でもZ でもなくX である

 

条61.2.2

科階級群、属階級群、種階級群のどれかにおいて、ある名義タクソンの階級が上昇したり下降したりする場合、あるいは、そのタクソンの学名が同時に複数の階級で使用される場合、そのタクソンの担名タイプは同じままである[条36.2, 43.1, 46.2]。

 

Aus属の亜属として設立されたBusが、亜属ではなく属として使用されるようになっても、亜属Bus の設立時に固定された担名タイプが、属タクソンであるBus の担名タイプである。

 

種階級群について、また「タクソンの学名が同時に複数の階級で使用される場合」の言及は誤りまたは不要のものと思われる(大久保 2006 より)

 

条61.3 担名タイプと異名関係

・異名(シノニム)関係の規定:規約の中では本条でメインに行われている

・用語集からはシノニムの明瞭な定義がない

 

条61.3.1

別々の担名タイプをもつ複数の名義タクソンが単一の分類学的タクソンだとされる場合、それらの学名は、そのタクソンの階級における主観異名である(しかし、従属的階級において異名とは限らない)。

 

Psittacus elegans Gmelin, 1788 とPlatycercus flaveolus Gould, 1837 の別々の担名タイプは、Platycercus elegans (Gmelin, 1788) が有効名であるヒラオインコという単一の分類学的種に所属すると考えられている。これら学名は種の階級では主観異名だが、それらはPlatycercus elegans の亜種という従属的階級では異名ではなく、有効名はそれぞれPlatycercus elegans elegans (Gmelin, 1788)とPlatycercus elegans flaveolus Gould, 1837 である。

条61.3.2

客観異名である複数の属名が科階級群における複数の学名の基礎として使用されたことがあれば、それら科階級群名は客観異名である。

 

条61.3.3

複数の名義属階級タクソンが、同一のタイプ種をもつ場合、あるいは、学名は異なるものの同一の担名タイプに基づくタイプ種をもつ場合、それら名義属階級群タクソンの学名は客観異名である。

 

条61.3.4

複数の名義種階級タクソンが、同一の担名タイプをもつ場合、それらタクソンの小名は、客観異名である。

条61.4. 亜属や亜種を担名タイプとして指定すること

ある名義亜属が名義科階級群タクソンの担名タイプとして固定されるならば、まずはじめにその名義亜属を属の階級に上昇させたものと見なす。ある名義亜種が名義属階級群タクソンの担名タイプとして固定されるならば、まずはじめにその名義亜種を種の階級に上昇させたものと見なす。

 

Planigale Troughton, 1928(哺乳類)は、種P. subtilissima (Lönnberg, 1913), P. tenuirostris Troughton, 1928, P. ingrami (Thomas, 1906) および亜種P. ingrami brunnea Troughton, 1928 を含んで設立された。原記載中で、最後の“ingrami の亜種” が“ジェノタイプ”という用語でPlanigale のタイプに指定された。P. ingrami (Thomas, 1906)ではなく、P. brunnea Troughton, 1928 が原指定によるタイプ種である。

 

…本来担名タイプとして指定すべきでない亜属や亜種を指定してしまった場合の対処が規定されている。(それら亜属や亜種を属や種に上昇させたものとみなす)