※あくまで勉強会の報告書ですので,間違った解釈が含まれる可能性があります.また,形式は統一していないことをご承知おきください.内容に関するコメントなどは是非事務局までお願いいたします.

 

また、本報告書は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」と「大久保 憲秀 (2006) 『動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方』」を参照しています。その他の引用文献はページ末に付してあります.

 

2012年6月10-11日

第4回命名規約輪読会

瀬尾 絵理子

 条69. 原公表中で固定されなかったタイプ種

 

勧告69A. 優先の要件

名義属または名義亜属にタイプ種を指定する場合、「適切に記載・図示されている種」「タイプ資料がなお存在している種」「資料*が得やすい種」を優先すべき。(*資料:試料・標本の誤字。英語原文material)

さらに、その条件を複数種が満たしている場合、優先順に列挙した以下の指針に従うべき。

 

  1. 「最普通種」「医学・経済学上の重要種」「communisadj. 普通の、共通の)、vulgarisadj. 庶民の、普通の、通常の)、medicinalisadj. 薬用の、薬効のある)、officinalisadj.薬用の、薬効ある、薬局方の)などの種小名をもつ種」を指定【69A.1.】
  2. 「設立時に含められた名義種のうちの1 種の有効名もしくは異名が、その属階級群タクソンの学名と実質的に同じ種階級群名」、つまり「同じ起原*もしくは、同じ意味の種階級群名を含んでいる種」を指定(”類似同語反復”に起因した選択)。ただし、他の要因がそのいう指定とは著しく異なることを示している場合は、この限りではない。【69A.2.】(*起原:起源の旧字体)
  3. 「設立時に含められた名義種のうち、いくつかが別の名義属階級群タクソンに移された後で、残った種のなかで適当なもの」を優先(”消去法の結果の選択”)【69A.3.】
  4. 「幼生その他未成熟標本に基づく名義種よりも、性成熟した標本をタイプとしてもつ名義種」が一般的に好ましい【69A.4.】
  5. 名義属階級群タクソン中に、種の複数グループが認められる場合、「できるだけ大きいグループに所属する名義種」を優先【69A.5.】
  6. 寄生生物の場合、「ヒト・経済的有用動物・広く普通に分布する宿主に寄生する名義種」を優先【69A.6.】
  7. 他のあらゆる点で同じならば、「名義属階級群タクソンの著者が、設立時点でよく知っている名義種」を優先【69A.7.】
  8. ある著者が、習慣的に”典型的”(すなわち代表的)種を先頭に配置し、それとの比較を他種で記載していたことが知られている場合、そういう事実は、タイプ種の指定において考慮するべきである【69A.8.】
  9. ある著者が、タイプ種をその位置で示していたことが知られている場合、「先頭に引用された名義種」を指定(”先頭種規則”)【69A.9.】
  10. 他のあらゆる点で同じならば、「当該の著作物・ページ・行などにおいて、最初に引用された名義種」を優先【69A.10.】

つまり、原公表でタイプ種が固定されずにいた、ある属について、タイプ種を決めたい場合、

適切に記載し図示してあるタイプ標本が博物館などにあり、

標本や採集が得やすい種をタイプ種とするとよい…?

(付録B 一般勧告 3〜9 にも記述あり)

 

勧告69A. 優先の要件

69A.2. =②の例

Bos taurus ウシ属 ウシ s.n. 中性名詞

bos, bovis s.m.f. ウシ、雄牛(ox, bull, cow) s.m. 男性名詞

Bos g.m. ウシ属(oxen) s.f. 女性名詞

taurus, -i s.m. 雄牛(bull) gr. ギリシャ語起源の

adj. 形容詞

Equus caballus ウマ属 ウマ praef. 接頭語・接頭辞

equus, -i s.m. ウマ(horse) suff. 接尾語・接尾辞

caballus, -i s.m. 馬(horse)

 

Ovis aries ヒツジ属 ヒツジ

ovis, -is s.f. ヒツジ(sheep)

aries, -etis s.m. ヒツジ(牡羊)(ram)、牡羊座(Aries)

 

Scomber scombrus サバ属 タイセイヨウサバ(通称:ノルウェーサバ)

scomber, -bri g.m. サバ

 

Sphaerostoma globiporum ナマコの仲間

sphaero-, sphaer- gr. praef. 「球の」「球状の」の意の接頭語

-stoma, -atis gr. suff. / s.n. 「〜の口」「〜の口をした生物」「〜の気孔・気門をもつ動物」の意の中性名詞を作る接尾語

-stoma, -ae gr. suff. / s.f. 「〜の口」「〜の口をした生物」「〜の気孔・気門をもつ動物」の意の女性名詞を作る接尾語

-stomus, -i gr. suff. / s.m. 「〜の口」「〜の口をした生物」「〜の気孔・気門をもつ動物」の意の男性名詞を作る接尾語

-stomum, -i gr. suff. / s.n. 「〜の口」「〜の口をした生物」「〜の気孔・気門をもつ動物」の意の中性名詞を作る接尾語

-stomatus, -a, -um gr. suff. / adj. 「〜の口」「〜の口をした生物」「〜の気孔・気門をもつ動物」の意の形容詞を作る接尾語

globi-, glob- praef. 「球の」「球状の」の意の接頭語

porosus, -a, -um adj. 小孔の多い、多孔質の(porose)

porus, -i s.m. 孔(porus gustatorius「味孔」[解剖])(pore)

 

Spinicapitichthys spiniceps スズキ目 ネズッポ科 タツヌメリ属

spino-, spini-, spin- praef. 「棘の」「棘のある」「脊髄の」の意の接頭語

capiti-, capit- praef. 「頭の」の意の接頭語

chthon, -onis s.f. 土地、地面(earth)

-ceps suff. / adj. 「〜の頭の」を意味する形容詞を作る接尾語

(caput, -itis, s.n. に由来し通常は中性も、属名の後綴りとなって名詞化された場合(-ceps, -cipitis, s.m.f.n.)各性が可能)

-ceps suff. / adj. 「〜を取る」を意味する形容詞を作る接尾語

(動詞capio に由来し、「〜を取る者」の意で名詞化されると(-ceps, -cipis, s.m.f.)男女の性が可能)

 

条70. タイプ種の同定

●70.1. 正しい同定の仮定

以下の場合、明白な反する証拠がない限り、その著者は種を正しく同定していたと仮定する

70.1.1. 既に設立されている名義種を、新しい名義属・名義亜属に含める場合

70.1.2. 新しい名義属・名義亜属、あるいは既に設立されているある名義属・名義亜属の

タイプ種として、そのような種を指定する場合

 

●70.2. 見落とされたタイプ固定

以前のタイプ固定が見落とされていたことが判明した場合、

① 見落とされていた固定を受容する ②それより後の固定はどれも無効

③不安定や混乱を引き起こす場合は、裁定を求めて審議会にその案件を付託する

 

●70.3. 誤同定されたタイプ種

タイプ種が誤同定されていたことを発見した著者は、以下のいずれかのうち、その著者の判断で、安定と普遍性にもっともよく寄与するであろう名義種を選びタイプ種として固定することができる

(ただし、故意に誤同定を引用して固定されたタイプ種については、条11.10・条67.13・条69.2.4 を見よ)

 

70.3.1. タイプ種として以前に引用された名義種

70.3.2. その誤同定が実際に指し示している分類学的種。この場合、著者は、本条に必ず言及し、かつ、タイプ種として以前に引用された学名と選択した種の学名の両方を引用しなければならない。

 

1792 年 Fabricius 氏 Staphylinus tristis を新種記載する

1802 年 Gravenhorst 氏 ある標本を ”Staphylinus tristis” と思って記載した(=誤同定)

1829 年 Stephens 氏 新属Quedius に “S. tristis Gravenhorst” を入れる

1837 年 Curtis 氏 S. tristis Gravenhorst がタイプであると指示する

1949 年 Tottenham 氏 誤同定に対応し、S. levicollis Brulle, 1832 をタイプ種に指定

= “S. tristis Gravenhorst, 1802, nec Fabricius, 1792” の有効な異名とした

1996 年 審議会 意見書1851 において、S. levicollis をタイプ種に指定

S. tristis Gravenhorst” が適格名でもなければ明示された誤同定でもなかったため(条67.2.1)

2000 年以降 条70.3.2 の下で、審議会に頼ることなく、S. levicollis をタイプ種に指定できる

(規約の先行諸版の下ではこうした行為はとりえなかった)→ 条86.1.1. も参照すると良い

 

●70.4. 故意の誤適用によるタイプ種の同定*(*同定:指定の誤字by 大久保(2006)『動物学名の仕組み』)

70.4.1. 新しい名義属・名義亜属のタイプ種として、既に設立されている名義種を誤同定の意味で用いることをはっきり述べ、その属・亜属に含まれている種を固定する場合は、条11.10・条67.13 を見よ。

条11.10 ある種小名・亜種小名を新しい名義属階級群タクソンのタイプ種とし誤同定の意味で採用した場合、

①著者がその学名を用いたことは新しい名義種を示していると見なされる

②それ自体の著者と日付をとって適格である

条67.13 すでに設立されている学名の故意の誤適用もしくは誤同定として引用されたタイプ種について

 

70.4.2. ある名義属・名義亜属のタイプ種として、既に設立されている名義種の誤同定の意味で用いることをはっきり述べ、その属・亜属に設立時に含められた種を固定する場合は、条69.2.4を見よ。

 

条69.2.4 誤同定の意味で用いると述べ、タイプ種として後世に指定した場合、その種は実際に指し示された分類学的種の有効名によって示される名義種である。(誤同定・誤適用としてその名が引用された名義種ではない)

→70.4.1.と70.4.2.の違いはなにか? 答え出ずに保留になりました

 

※用語集

誤適用する misapply:ある学名を、故意と否とを問わず、本規約の条項の下で、不正な意味で用いること。

(例えば、担名タイプと一致しないような用法)

誤同定する misidentify:ある標本をある特定のタクソンに誤って属させること