※あくまで勉強会の報告書ですので,間違った解釈が含まれる可能性があります.また,形式は統一していないことをご承知おきください.内容に関するコメントなどは是非事務局までお願いいたします.

 

また、本報告書は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」と「大久保 憲秀 (2006) 『動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方』」を参照しています。その他の引用文献はページ末に付してあります.

 2014年6月15-16日

第6回命名規約輪読会

下光利明

 

条23.4~23.8(先取権原則) 

23.4. ホモニムへの適用

ホモニムの場合,名前の(相対的)優先権は先取権の原理と同名関係の原理の両方にリンクすると記述されている.しかし,先取権の原理だけで十分対応可能である.両者の柱は独立したものなので,互いに干渉することはない(cf. 条23.1. 先取権の原理の声明・52.1. 同名関係の原理の声明).ただし,同時に公表された場合は,条24 に従う.

 

23.4.1.

科階級群名そのものがホモニムになった場合,これは条55.3.1 によって審議会に委ねられるから先取権を適用する場面ではない.科階級群のタイプ属の学名がホモニムだった場合(この場合,科階級群名はホモニムの関係にあるとは云わない),これは条39 によって属名のホモニムを解消すればよいが,そうなると結果的に科階級群名の綴りも変わる.結局,同一の綴りとなった科階級群名自体には先取権を持ち出すまでもないということになる.

・ここでとりあげなくても,先取権の原理を用いれば十分対応可能であろう.

 

23.5. 綴りへの適用

先取権の原理は適格名の綴りに適用する.ただしこれは,適格名の処理の結果としてシノニム関係が見出された時にのみ適用される.シノニム関係が生じるのは,

 

①正しい原綴りと不当な修正名(意図的に原綴りを訂正したもので,正当なもの以外:cf. 条19)

②誤った原綴りに対して不当な修正を行った場合の正当な修正名と不当な修正名の関係だったとき.

 

これも,不当な修正名が慣用されてなおかつ原著者とその日付なっていれば正当な修正名とみなされ,シノニムは解消される(cf. 条33.2.3.1).

 

23.6. 命名行為への適用

学名や名義タクソンについて

> 第一校訂者の原理(条24.2)の下で執られる行為

> タイプ種の固定(条68, 69)

> 属階級タクソンに名義種を初めて含めること(条67.2)

> レクトタイプの指定(条74.1.3)

> ネオタイプの指定(条75.5)

 

これらの目的のために行われた命名法的行為は唯一有効な行為となり,先取権の原理が適用される.命名法的行為は「有効」か「無効」のどちらかでしかなく(cf. 規約 p. 108 図),適格な著作物の中で行われた命名法的行為は必ずしも有効であるとは限らない.

 

23.7. 寄集群と生痕化石タクソンへの適用

同名関係の原理の適用を除き,以下の事項では先取権を競わない.

 

23.7.1.

寄集群であることをはっきりとさせたうえで設立された学名は,属階級群名として扱われるが(条10.3),先取権を競わない.

※寄集群はタイプ種をもたず(条13.3.2),2 群以上に分けられる際にいずれかに名前が引き継がれることはない.

ex.1 寄集群として命名されたMus [1910]がAus[1890]とBus[1920]からなることがわかった:MusAus の新参異名になることや,Bus の古参異名になることはない.

ex.2 Mus は全てBus であり,寄集群ではなかった:MusBus の古参異名とはならない.

ex.3 区別のつかないもう一つの寄集群Nus があった:Nus とは先取権を競わない.

…初めに寄集群であると明言して設立された名前は,後に寄集群でない扱いにはされない.

 

23.7.2.

設立後に寄集群とされた属階級群名は,寄集群とされている限り先取権を競わない.

ex. 一つの属として記載されたMus が後に寄集群とされた.さらに後になってその中からAusBusとされるものが除かれた:残ったMusCus に属すべきとされれば,Cus と先取権を競う.

このときタイプ種は?このような状況はありうるか(実例など)?

 

23.7.3.

生痕化石タクソンに対して設立された学名は,それを作り出したと思われる動物に対して設立された学名「とは」先取権を競わない.

ex. ある動物の化石Aus と,それがつけた足跡の生痕化石Bus とでは先取権を競わない(ただし,足跡の他の化石CusAus がつけたものであった場合,生痕化石同士のBusCus で先取権を競う) .

 

23.8. 雑種に基づいて設立された種階級群名への適用

後になってからそれが雑種まさにそのものだと判明した動物に対して設立された種階級群名は同名関係にはなり得るが,(シノニムとして先取権を競うことはないので)親種の有効名にはできない.