※あくまで勉強会の報告書ですので,間違った解釈が含まれる可能性があります.また,形式は統一していないことをご承知おきください.内容に関するコメントなどは是非事務局までお願いいたします.

 

また、本報告書は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」と「大久保 憲秀 (2006) 『動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方』」を参照しています。その他の引用文献はページ末に付してあります.

 2016年6月12-13日

第8回命名規約輪読会

岡西政典

 

条36. 同位の原理

 

36.1. 科階級群名に適用する同位の原理の声明.

同一のタイプ属に基づいて設立された科階級群は,全て同時に,同一の著者によって設立されたとみなす.それは,その階級群名を誰が最初に使用したかは問わない.

例)GorgonocephalidaeはLjungman, 1867によって設立された.その後,Okanishi & Fujita, 2013が初めてGorgonopcehaloideaを使用したが(原著ではGorgonocephalidea,これも実は綴り間違い),著者と日付はGorgonocephaloidea, Ljungman, 1867であり,Gorgonocephaloidea, Okanishi & Fujita, 2013ではない.同様に,GorgonocephalinaeをDöderlein, 1911が初めて使用したが,これはその著者ではない.

 

36.2. タイプ属.

ある科階級群の名義タクソンの階級が上昇・下降しても,同一のタイプ属を持つ.注)名義タクソン:ある適格名によって表示されるタクソンという概念.

※条61.2.2. 種~科の階級群の名義タクソンの階級が上昇・下降しても,あるいはそのタクソンの学名が同時に複数の階級で使用される場合(例えばある研究者はAusを属Ausと位置づけ,もう一人が亜属Bus (Aus)と考え,両者が世界的に通用している場合)も,そのタクソンの担名タイプは同じである.

 

条37. 名義タイプタクソン

37.1. 定義.

同一のタイプ属に基づいて設立された科階級群は,全て同時に,同一の著者によって設立されたとみなす.それは,その階級群名を誰が最初に使用したかは問わない.

例)科Tipulidae Latreille, [1802](タイプ属Tipula Linnaeus, 1758)は多くの亜科に分割され,それぞれ,タイプ属に基づいて命名された.Tipulaを含む亜科,Tipulinae Latereille, [1802]は名義タイプ亜科である.

 

37.2. 学名の変更が名義タイプタクソンに及ぼす影響.

ある科階級群タクソンの学名が不適格または無効であることが判明した場合,条23.3.5に示す通り,その学名を,同一階級群内(この場合,上科,科,亜科,族,亜族など)の中の,異名を含む学名の中からの最古の適格名で置換しなくてはならない.その置換した代用名義タクソンのタイプ属を含むタクソンは全て名義タイプタクソンとなる.

例)Ausをタイプ属とするAusidae, Aa 1900が無効となった.この中に,亜科Ausinae, Aa 1900 Businae, Bb 1850, Cusinae, Cc 1860があった場合,Ausidae, Aa 1900であったタクソンの学名はBusidae, Bb, 1850に置換され,Businae Bb, 1850は名義タイプ亜科となる.

 

条38. 科階級群名間の同名関係

 

科階級群名間の同名関係については,条39と条55を見よ.

 

※条55.

  • 同名関係の原理は,生痕タクソンを含め全ての科階級群に適用する.
  • タイプ属の綴りが同じで同名になった科の場合は,同名とみなさず,審議会に付託→属名から形成するというルール上,個人では対応できないため(議事録).
  • 古参同名が遺失名の場合,その同一の学名に基づくが,新たに語幹を選択して,新置換名を提唱する事が出来る.
  • 1文字違いは同名にはならない.
  • 同名の科階級群が同じ日付で公表された場合,高い階級に設立された方を古参同名とみなす.

※例えば科階級群名の同名が起きうるのは,論文集の中で,共同研究者の各々が筆頭著者として書いた別の論文の中でそれぞれ提唱してしまう場合(議事録).

 

条39. タイプ属の学名の同盟関係もしくは抑制に基づいた無効性

 

ある科階級群のタイプ属の学名が,①新参ホモニムにより,②古参ホモニムだが審議会により,「全面抑制」されている,③古参シノニムだが審議会により「部分抑制」されている場合,その科階級群名は無効.

科階級群が使用中(有効ということ?→無効なのに有効かのように使われている場合)の場合,①同位階級群内の全ての異名の中で最古のものに置換する,もしそのような名前がなければ,②元のタイプ属に新たに与えられた名前(置換名や代用名)に基づいて,置換する.

 

条40. タイプ属の異名関係

 

40.1. 科階級群の有効性は影響を受けない.

ある名義科階級群タクソンのタイプ属が別の名義属の異名であっても,その科階級群名は変わらない

例)Neosittinae Ridgeway, 1904のタイプ属Neositta Hellmayr, 1901がDaphoenositta De Vis, 1897の新参異名であることが判明しても,Daphoenosittinae Rand, 1936が有効とはならない.

 

40.2. 1961年よりも前に置換された学名.

1961年以前に,科階級群のタイプ属が異名である事がわかり,そのタイプ属が別の名前に置換されても,その科階級群名が慣用されているならば,それを維持する(異名関係は主観的なので,それに科の名前が影響されるのは良くないからであろう(議事録)).

40.2.1. この維持された学名は,その本来の著者権を保持するが,先取権は置換された学名から奪う.

例)Orphnephilidae Rondani, 1847は,Oprphnephila 1832に基づいている,これがThaumalea, 1831の異名であるとしたBezzi (1913)によりThaumaleidaeが設立され,慣用されれば,これを使い続ける.これは,Thaumaleidae Bezzi 1913 (1847)と記すべきであり(勧告40A),Orphnephilidae 1847にまで先取権を遡る事ができる.

 

条41. 語同定されたタイプ属と見落とされたタイプ固定

 

ある科階級群の①タイプ属が誤同定されたこと,②そのタイプ属が誤同定されたタイプ種に基づいていること,③そのタイプ属へのタイプ種の有効な固定が見落とされていたこと,が判明し,その安定が脅かされる場合は,条65.2を見よ.※本条は条番号の維持のためだけにあるようだ(大久保,2006)

 

条65.2. 誤同定や変化した概念.

条65.2.1. 科階級群名が設立された時のタイプ属が誤同定された(例えば,著者がAusをタイプ属にしようとしているが,そのAusはどう見てもBusである,あるいはBusをタイプ属にしようとしているが,その著者はBusのことをAusと言及している)場合,その案件は審議会に付託する.

 

条65.2.2. タイプ属(もしくはタイプ種)に対するタイプ種(もしくは担名タイプ)の固定が見落とされており,それがのちに再発見された場合,通常はその見落とされていたタイプ固定を受容し,それよりも後の固定は無効とするが,それが不安定や混乱をもたらす可能性がある場合は,審議会に付託する(条70.2).不安定などをもたらす場合とは,例えば元々使われていたタイプ属(もしくはタイプ種)と,見落とされていたタイプ種(もしくは担名タイプ)が一致しなかった場合など.※すなわち,タイプ属-タイプ種-担名タイプ標本の現基準の連続性が少しでも失われる場合の事を指していると思われる(大久保,2006).

 

条65.2.3. あるタイプ属が設立された時点でタイプ種の同定が誤っていた場合,条70.3に基づき,語同定の発見者が安定と普遍性により寄与するタイプ種を固定する事ができる.しかし脅威に打ち勝てない時には,審議会にその案件を付託できる.

 

大久保(2006)の例[真の語同定の場合])AusからAusideaを設立したが,後にAusのタイプ種Xが実はタイプ種Yであったことが判明した場合,その発見者は条70.3に基づき,安定と普遍性により寄与すると思う方を選ぼうとする場合,その科階級群の構成種である方を選ぶべきである(選択の余地なし).しかしその科階級群が両方の種を含む場合,あるいはそれらの種が含まれるかどうかさえ分からない場合(これが「脅威に打ち勝てないとき」であろう)は客観的に判断できないので,審議会に付託する.

 

誤同定を故意に用いる場合)1860年にBが,1850年にAが設立したAus ausとは違う種として用いたAus ausがあったとする.それを,Aus属のタイプ種として固定していた場合,この1860年に記載されたAus ausが名義種とみなされる.このAus ausのホモニムは,他の条によって自動的に解消されるであろう.

 

引用文献

  • Okanishi, M.* and Fujita, T. (2013) Molecular phylogeny based on increased number of species and genes revealed more robust family-level systematics of the order Euryalida (Echinodermata: Ophiuroidea). Molecular Phylogenetics and Evolution. 69 (3): 566—580.
  • 大久保 憲秀, 2006, 動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方. 伊藤印刷出版部, 301p.