※あくまで勉強会の報告書ですので,間違った解釈が含まれる可能性があります.また,形式は統一していないことをご承知おきください.内容に関するコメントなどは是非事務局までお願いいたします.

 

また、本報告書は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」と「大久保 憲秀 (2006) 『動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方』」を参照しています。その他の引用文献はページ末に付してあります.

 2014年6月15-16日

第6回命名規約輪読会

橋詰和慶

 

条21 改正部分

  • 前刷り(preprint) → 後にあらためて論文集や業績集などの一部出版されるのに先立ち、特定された公表の日付(奥書きされた日付)が、それ自体に与えられて公表される著作物。前刷りは、動物命名法の目的においては公表された著作物になりうる。

 

  • 別刷り(reprint) → 定期刊行物、単行書、その他のより大きな著作物の、一部分をなすある著作物の複本(抜き刷り)。(通常は著者の私的な)配布を意図として分離・複写したもので、それ自体に特定された出版公表の日付(奥書きされた日付)を持たない。1999 年より後において、別刷りを先立って配布しても、それは動物命名法の目的にとっての公表に当たらない。

 上記は日本語版の用語集の記述だが、抜き刷り(本体から必要な部分だけを特に余分に印刷すること:offprint)≒別刷り(本物とは違う用紙に印刷したもの、複写機を用いたものも該当?:extra-illustration)=前刷り(preprint)+後刷り(reprint)とした方が体系的ではと思う。

 

条21 改正(加筆)部分

 

21.7.2.

電子版として発行される著作物は、不完全にしか特定できないとしても(条21.3)、公表の日付を述べることが要求される(条8.5.2).

※上の条文は存在意義がないと思われる。なぜなら既に電子的に発行され配布された著作物には2011 年よりも後(=2012 年)から(条8.5.1)、公表の日付が義務付けられているので(条8.5.2)、通常の印刷媒体と異なり、そもそも日付が不完全にしか特定できない電子出版を想定する必要は全くない。加えて、2012 年改正前の第4 版では、(たとえば、World Wide Web のように)電子信号として配信される文書や描画(条9.8)は公表したことにならないとされていた。野田・西川2013(タクサ34:71-76)でも同様な指摘がなされている。

 

21.8.別刷りや前刷りの先行配布.

別刷りや前刷りの先行配布は,次の要件が定めるように公表の日付に影響を及ぼす:

21.8.2.1999 年よりも後に行った別刷りの先行発行は,公表の日付を早めない.ただし,紙に印刷され,それ自体の公表の日付が明確に刷りこまれている前刷りは,条8 における公表の要件を満たし,かつ,条9 によって除外されないならば,その発行日の時点から公表された著作物である(用語集:“別刷り”,“前刷り”を見よ).

※上記、下線のみ追加。条8-9 によって有効であるか否かを決めることを明記している。どの程度の冊数を配布すると、入手可能であり(条8.1.2)、「公表」の要件を満たし、「公表を早めた」扱いになるのかについては、判断に難しい局面があることが予想される。

 

21.8.3.

最終版の公表の日付に先立って,その予報版がオンラインで閲覧可能な場合がある.そのような先行した電子的閲覧は,著作物の公表の日付を早めない.予報版は公表されたものではないからである(条9.9).

※2000 年以降の前刷りと同様、電子的な予報版も公表した扱いにならないと言える。印刷内容の確認の過程で、どの程度の人に開示可能になるかは不明だが、ネット上に内容が表示される雑誌もある。早期に公表することでインパクトファクターを上げる利点もあるらしい。

 

21.9.紙と電子で配布される著作物.

印刷版と電子版の両方で発行される著作物中で公表された学名もしくは命名法上の行為は,先に条8 の要件を満たし条9 によって除外されない版の公表の日付をとる.

※ある論文で電子版も紙の印刷物も共に存在するものの、公表の日付が異なっている場合、期日の早い方を、条8-9 にかなっていれば、採用できると言える。