※あくまで勉強会の報告書ですので,間違った解釈が含まれる可能性があります.また,形式は統一していないことをご承知おきください.

2016年6月12-13日

第8回命名規約輪読会

生野賢司

 

条51 (著者名の引用) 

内容:学名や命名法的行為の著者名の引用に関するルール

 

条51.1 学名の著者名を表記するかどうかは自由.

勧告51A 学名の著者と日付は最低でも1回は引用すべき(日付については勧告22Aも参照).

 後半(「ある著者の姓と名とが混同されるおそれがあるときは,学術文献表中と同様の方法でそれらを区別するべきである.」の部分)は,英語版と仏語版で内容が異なる(大久保,2006).

 

〈英語版に基づく解釈〉 英語版を訳して作られている日本語版は,こちらの内容である.

 

If the surname and forename(s) of an author are liable to be confused, these should be distinguished as in scientific bibliographies.

 

 例えば,ある著者の名前のどれが姓でどれが名かわからない場合や,vonやduを付けるべきかわからない場合に(※),引用文献欄中の著者名の姓にしたがうべき.

※外人の名前の表記に関しては,柁原(2014)が参考になる.

 

〈仏語版に基づく解釈〉 規約の原文は仏語版なので,本来の意図はこちらと考えられる.

 

 

Si nécessaire, afin d'éviter la confusion entre des noms d'auteurs homographes, le ou les prénoms (ou leurs abréviations) peuvent être rajoutés, comme dans les bibliographies scientifiques.

 

 同姓の人物の存在によって混乱が生じる場合に,引用文献欄と同じようにファーストネームやイニシャルを付記することで区別すべき.

 

 著者名を引用することによって,記載論文等にたどりつきやすくなりさえすれば(と同時に同名も区別できれば)よいと考えられるので,同姓の人物を区別して表記する必然性がわからなかった.しかし,論文を読んだり書いたりする場面を想定すると,混乱を防げるというのは重要かもしれない(例えば棘皮動物の研究者にはH.L. Clark,R.N. Clark, A.M. Clarkがいるそうです).

 

勧告51B 著者名はラテン文字で表記すべき.

 新タクソンの設立は英語以外の言語でも可能だが(勧告13B,一般勧告B7),例えば,山田(2016)という日本語の論文で記載されていても,Aus aus Yamada, 2016と表記すべきということ.

 

条51.2 属の結合が変更された際に用いる丸括弧以外の記号は,著者名の引用には使えない.

 例えば,世界にひとつだけの花/SMAP のようにAus aus/Yamadaと表記してはならない.

ただし,例外あり(勧告51D;大久保,2006).

 

 

勧告51C 他の箇所で完記されていれば,‘‘et al.’’を使ってよい.

 記載論文を引用文献欄に載せない場合や,その欄でも et al. を使用しなければならない場合は,本文中で完記する必要あり(大久保,2006).

 他の勧告の多くとは異なり,「すべきである」(should)ではなく「することができる」(may)という表現が使われているのは,条件を厳しくするのではなく緩和する内容であるためと考えられる.

 

51.2.1 学名の使用者を引用したいときは,丸括弧以外の記号などを使える.

 

例 使用者:Latreille,学名と著者:Cancer pagurus Linnaeus の場合

Cancer pagurus Linnaeus sensu Latreille sensu ~:~が言う意味での

Cancer pagurus Linnaeus (as interpreted by Latreille)

× Cancer pagurus Latreille や Cancer pagurus (Latreille) 学名の著者と誤認される

      ↑条47の例の2行目に同様の表記が使われている(不適切).

 

勧告51D 1950年以前に公表された新学名は著者が匿名でも適格だが(条14),匿名の著者はAnon.(※)と表記できる.正体が判明している場合や推定される場合は,角括弧にくるむべき.

※anonymousを名詞的に使用.省略のピリオドを書き忘れるとAnonさんと誤認される恐れあり(大久保,2006). ↓元は匿名だったが判明したor推定される著者

右注の例 Papilio adippe [Denis & Schiffermüller], 1775

 

公表された日の方が不明な場合は,著作物が確実に存在していた最も早い日,もしくは月や年の末日とする(条21.3).

 

勧告51E 著作物の著者と学名の著者が異なる場合に,学名の著者を書いただけではどの論文で設立されたか不明になってしまうため,著作物の情報が分かるように引用すべき.

 例えば,Yamada & Suzuki (2016) で設立された Aus aus Yamada に言及する際に,

Aus aus Yamada in Yamada & Suzuki (2016) と表記する.

 

勧告51F 不適格名や除外名を引用したいときは,その地位を明示すべき.

 事情を知らない読者が誤って適格名として扱ってしまうのを防ぐ.

 

Halmaturus rutilis Lichtenstein, 1818 (nomen nudum)

↑裸名(p.107;記載を欠く学名のこと)

Yerboa gigantea Zimmermann, 1777 (published in a work rejected by the Commission in Opinion 257)

審議会 意見書

"Pseudosquille" (a vernacular name published by Eydoux & Souleyet (1842))

通俗名

 

条51.3 原記載時とは別の属と結合されている種階級群名の著者や日付は丸括弧にくるむ.

注意点:丸括弧のない学名が必ずしも設立時の学名であるとは限らない(大久保,2006)

 例えば,設立時の学名が Aus xus AuthorX と Bus yus AuthorY である2種は,

Bus xus (AuthorX) xusの所属する属が変わった

Bus yus xus (AuthorX) yusの属はそのままだが,xusが所属する属が変わった(yusの亜種扱い)

Aus yus xus AuthorX yusの所属する属が変わったが,xusの属はそのまま(yusの亜種扱い)

 

51.3.1 ある種階級群名が,設立時に結合された属名が不正な綴りや修正名であった場合,原綴りとは異なっていても,丸括弧にはくるまない.

 

例 d'Orbigny (1850) が,属Fenestella Lonsdale, 1839の1新種subantiquaを設立した際に,属名の綴りを誤り,Fenestrella subantiquaとした.属名の正しい綴りは,本種の設立時に用いられたものとは異なるが,Fenestella subantiqua d'Orbigny, 1850と表記し,著者と日付は丸括弧にくるまない.

 

 不当な修正名(条33.2.3;ある学名の原綴りに対する明らかに意図的な変更であって強制変更でないもの(修正名)のうち,条32.5にしたがって修正されたもの以外)は適格であり,固有の著者と日付をもつ.もしこれが有効名であるとしても,種名の著者と日付は丸括弧にくるまない.

 

51.3.2 丸括弧にくるむのは,属の結合が変わった場合のみ.

 

Goniocidaris florigena Agassiz 設立時の学名

Petalocidaris florigena (Agassiz) 別属に移ったため丸括弧にくるむ

Goniocidaris (Petalocidaris) florigena Agassiz 別亜属に移っただけであり,丸括弧にはくるまない

 

51.3.3 1960年以前に,既存の属名と結合して種階級群名を設立し,同時に条件付きで新属を提唱している場合,新属名と結合する際は丸括弧にくるむ(1961年以降に条件付きで提唱された新学名は不適格;条15.1).

 

例 Lowe (1843)がSeriola gracilisを提唱した.その記載文中で,「将来Seriola属から分離するとは今は考えにくいが,分けるならCubiceps属と呼ぼう」と記述した(大久保,2006による訳).この場合,この種はSeriola属との結合で設立されたものと見なす(条11.9.3.6).したがって,この種をCubiceps属に含める場合は Cubiceps gracilis (Lowe, 1843) と表記する.

 

勧告51G 属の結合を最初に変えた人の名は,著者名や日付をくるむ丸括弧の後に続けるべき.

Limnatis nilotica (Savigny) Moquin-Tandon や Methiolopsis geniculata (Stål, 1878) Rehn, 1957

 

引用文献

柁原 宏, 2014, 書誌雑感. タクサ, No.37, pp.46–49.

大久保 憲秀, 2006, 動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方. 伊藤印刷出版部, 301p